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ネットワ―ク関連発明保護の今後に注目

2022年7月15日
三好内外国特許事務所
弁理士 高橋 俊一

かねてから、ネットワ―ク関連発明については、サ-バ-を外国に配置して当該サ-バ-に特許権の一部の構成要件を実施させた場合に、当該ネットワ―ク関連発明の日本の特許権を侵害するか否かについての問題が提起され、裁判例が極めて少ないことから、専門家による議論がなされてきた。特許庁では、2017年に公表された「ネットワ―ク関連発明における国境をまたいで構成される侵害行為に対する適切な権利保護の在り方に関する調査報告書」において、この問題を検討する上での基礎資料が作成され、一昨年7月の「AI・IoT技術の時代にふさわしい特許制度の在り方」においてはこの問題が検討され、「直ちに制度の見直しを検討するのではなく、具体的なケースに応じて裁判所が適切な判断を下すことを期待しつつ事態の推移を見守ることが適当である。」との結論を出している。要は、当分は裁判所の判断を見守ろうということである。この結論が出された背景には、米国、ドイツ、英国などで類似の問題に対して、当該国の特許権侵害とする属地主義を柔軟に解釈した判断が一部出ていることにあると推察される。

 一方、本年の3月24日に、東京地裁においてドワンゴとFC2との動画のコメント表示技術(特許第6526304号)に関する特許権侵害訴訟の判決が出された。被告の実施は技術的範囲に属すると認めたものの、「物の発明の「生産」に当たるためには、特定発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきである。」として、米国に配置されたサ-バ-で行われた特許構成要件に該当する処理は、日本国内での実施と認められないことから、侵害には当たらないと判断した。すなわち、裁判所は、属地主義の原則的な解釈の下、「特許権侵害が成立するためには、特許権のすべての構成要素の実施行為が日本国内で行われる必要がある」と判断した。

 ただ、この東京地裁の判断については、ネットワ―ク関連発明の適切な保護の観点から、驚きをもって見る意見が多い。つまり、ネットワ―ク関連の事業においては、サ-バ-を外国に配置して当該サ-バ-に処理をさせて、その結果を日本のクライアントに提供することが既に普通に行われており、今後このような事業形態が益々増大していくことが予想される中、被疑者がサ-バ-を外国に配置して当該サ-バ-に処理をさせることで容易に日本の特許権を回避できることは、到底、特許権の適切な保護にはならないからである。この問題については、条約や法改正等により明文の規定を設けることが必要であるとの複数の意見があり、東京地裁の判決でも、「~明文の根拠なく、~物の発明の「実施」としての「生産」の範囲を画するのは相当とは言えない。」と判示している。

 この判決を受けてということではないようであるが、本年度の特許庁政策推進懇談会では、検討課題として、「AI・IoT時代に対応した特許の「実施」定義」が挙げられており、属地主義の緩和に向けての何らかの方向性が出されることが予想される。冒頭の調査報告書では裁判所の判断を見守るという結論が出されていたものの、各方面からの働き掛けで言わば前倒し的に議論されることになった。ドワンゴとFC2との特許権侵害訴訟については控訴されており、知財高裁がどのような判断をするのかについては注目されるところであるが、同じく、特許庁政策推進懇談会の検討結果についても大いに注目されるところである。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        以上